2013/06/30

租税回避を巡る議論から見えてくること(2)

前回の続きで、租税回避を巡る議論から見えてくる3点のうち、ステークホルダーの要求の変化とlevel playing fieldという考え方について考察したいと思います。


ステークホルダーの要求の変化


以前から指摘はされていた租税回避ですが、ここまで大きな問題として世界中のマスコミで取り上げられ、各国政府が対応に乗り出したことはこれまでになかったのではないかと思います。このことはステークホルダーからの要求が時代によって変化するということを表しているように思います。今回の租税回避の問題と同じように、以前は指摘されていなかったことが時代の変化と共に浮かび上がり、問題として指摘され始めるということは多々あります。例えば、責任の範囲という意味で以前は単体の活動のみ考慮していれば良かったものが今ではサプライチェーンにも遡って責任が問われるようになっていますし、責任の種類という意味では水の使用量などが新たな問題として取り上げられつつあります。企業がCSRを適切に実践していく上では、時代と共に変化するステークホルダーからのこれらの要求をしっかりと汲み上げていく必要があります。
ステークホルダーからの
要求は変化する

CSR実践の為のガイドラインとして有名なのがISO26000ですが、ISO26000は「ステークホルダーの特定及びステークホルダーエンゲージメント」がCSRの前提となると指摘しています。ステークホルダーエンゲージメントとは、非常に簡単に言えばステークホルダーとの対話を行い、それを通じて自社の事業活動のあり方(プロセスとプロダクトの両方)を改善していくことです。「私たちは社会にとって良いことをしています」と勝手に言うのではなく、自分たちのやっていることが社会にどう評価されているのかをステークホルダーとの対話によって把握しなくてはならないということをISO26000は示しています。

CSRはあくまで社会からの要請に基づいて、自社活動の社会へのマイナスのインパクトを減らし、プラスのインパクトを増やしていくことであり、社会からの要請を確認する上でステークホルダーの特定とステークホルダーエンゲージメントは不可欠なアクションです。そして重要なのはこのステークホルダーエンゲージメントを継続的に実行することです。ステークホルダーエンゲージメントを継続的に実行することによって、企業はステークホルダーの要求の変化を適宜事業活動に反映させ、時代の要請にあったCSR活動を実行していくことが出来るようになります。

租税回避の指摘を受けている企業は、今まさにステークホルダーからの"適切な納税"という新たな要請に直面し、対応が求められている状況と言えます。しかし、一体何が"適切な納税"なのかはステークホルダーの側もまだ分かっておらず、今は感情論が専攻しているように思います。ステークホルダーが常に正しいとは限らず、ステークホルダーが自分たち自身の要求したいことを常にきちっと理解できているわけでもないと思います。そのため、企業側もしっかりと主張し、対話を継続していく中で進むべき方向について合意を形成していくことが重要です。これもステークホルダーエンゲージメントの重要な役割の一つだと考えることができます。


level playing fieldという考え方

租税回避問題の難しさは"level playing field"が確立されていない点にもあります。"level playing field"を意訳すると、「公平な競争条件」といった具合になると思いますが、要は国ごとに規制が異なり、国ごとに納税に対する市民の考え方も違う為、グローバル市場の中で租税回避によるアドバンテージを享受できる企業とアドバンテージを享受できない企業が発生してしまうということです。

全ての企業が「共通のルール」の中で
競争する環境を整備する必要がある
仮に現在租税回避が問題視されている国々で、今後"適切な納税"が何かについての合意がなされ、それがCSRとして認識されるようになり、現在やり玉に上げられているような有名グローバル企業がそれらへの対応を行ったとしても、グローバルにlevel playing fieldが確立されない限り租税回避を継続する企業は存在し続けます。そしてそういう企業はマーケットで一定の競争力を維持することが可能になります。IT業界のように動きが大きく早い市場においてはわずかな競争力の差が致命的なものとなる可能性もあります。

これは租税回避に限ったことではなく、CSRへの対応が企業にとってのコスト増となるケースにおいては、CSRを果たしている企業が市場競争においてディスアドバンテージを被る(逆に言えばCSRを果たしていない企業がアドバンテージを得る)ことになるため、level playing fieldを整備し、全ての企業が適切にコストを負担する競争環境を整えることが非常に大切です。CSRを実行しようとしている企業が戦っている競争環境全体でlevel playing fieldが形成されない限り、この種の議論は繰り返されていくことになるだろうと思います。


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